PM人材の需要が高まる一方で、PMの責務を果たすことはその本質と文化的な背景から難しいものです。
PM人材の需要が高まる背景とその理由について考えてみました。
PMが不足する背景
世界的にプロジェクト型の仕事は増え続け、DXはPM人材の需要増加に拍車をかけています。
1) 恒常的な需給ギャップ
世界的にプロジェクト型の仕事が増え続け、2030年までに累計2,500万人の新たなプロジェクト人材、毎年約230万人の新規参入が必要とされています。日本でも推計上、2030年に41〜79万人規模のIT人材不足が見込まれており、案件増(需要)に対して人材供給が追いつかない状態が続いています。結果として、PMに対する恒常的で強い引き合いが生まれています。
参考:PMI「Talent Gap」/経済産業省「IT人材需給に関する調査」
2) DXの現場で“統括×実行”を担う人材不足
DXが広がる一方で、経営の方針を束ねる統括役と、現場で前に進める実行役の双方が不足しています。公的調査でも、事業会社を中心に「戦略の取りまとめ」と「現場の推進」を担う人材の不足が繰り返し指摘され、規模によっては6割超が不足と回答する層もあります。この不足が、プロジェクトを設計し動かすPM/PMOタイプの継続的な需要増につながっています。
参考:IPA「DX動向2024」
プロジェクトマネジメントが難しい理由
PMは社内/社外の関係者の利害調整をしながらプロジェクト達成により価値創出をすることが求められます。
一方で日本では役職者がPMとしてプロジェクトに参画することが多いですが、役職者は多忙でプロジェクトマネジメントにそれほど時間が取れません。その現実がプロジェクトマネジメント実施の難しさに拍車をかけています。
役割の多軸化 ― 経営と現場、社内と社外の調整
PMは一つの肩書きではなく、複数の役割を“同時並行”で引き受ける存在です。経営のKPIや投資対効果を語りつつ、現場の仕様・テスト・運用の現実も踏まえ、社内の事情(組織・稟議・リソース)と社外の制約(顧客契約・規制・ベンダー条件)を矛盾なく束ねる必要があります。会議ではKPIや収支、品質・納期、契約の話が同時に飛び交いますが、それらを一つのストーリーに編み直し、必要な決定を「今」下すことが求められます。
難しさの本質は情報量ではなく、視点の切り替えコスト(経営⇄現場、内⇄外、短期⇄中長期)が常に発生する一方で、結論は一つに収れんさせなければならない点にあります。PMは「一貫性の設計者」として、相反する制約の中で“現実に通る案”をつくることが仕事の核になります。
“ラストマンシップ”が求められる
PMは成果に責任を負いますが、意思決定権や資源の鍵はしばしば別組織に分散しています(調達・法務・品質保証・情報システム・外部ベンダーなど)。権限は分散し、責任は集中する構図になりやすいです。だからこそ、PMには“最後まで決め切る人”としてのラストマンシップが求められます。
具体的には、誰が・いつ・何を決めるのかという意思決定の設計図を自ら描き、決まらない場合は前提と選択肢、リスクと影響を明示して代替案で前に進める姿勢が必要です。必要なエスカレーションはためらわず、意思決定の遅延をプロジェクトリスクとして扱います。多くの関係者の間で責任境界が曖昧になりやすい状況で、PM側が“決め方そのもの”を設計し、実行する胆力が求められます。
「言うは易く行うは難し」、自分が決め切るという覚悟を持つことは非常に難しいことです。
日本の文化 ― 「PM」が「エンジニア」や「役職者」の延長線上に置かれがち
日本の現場では、PMを独立した専門職というより、優秀なエンジニアの延長や“肩書のある人”の仕事として扱う傾向が残っています。結果として、技術の熟練や社内のマネージャーという肩書がそのままPM適性と見なされやすく、計画づくりや合意形成、変更の扱い方、成果の測り方といったPM固有の技能が十分に切り分けられません。評価の視点も、コードや機能、わかりやすい資料の出来栄えなど“目に見える成果物”に寄りやすく、関係者を同じ方向に向けること、リスクを未然に潰すこと、意思決定の手順を整えることといった“見えにくい価値”が後回しになりがちです。こうした前提のままでは、PMの役割が専門性として育ちにくく、結果として「PMは難しい」という印象が強まりやすくなります。
まとめ
社内のPMが会社の価値向上のためにプロジェクトマネジメントをすることはもちろん望ましいのですが、現在の業務で忙しく、かつ、プロジェクトマネジメントの専門知識がない中でプロジェクトを進めることにプレッシャーを覚えることは少なくありません。
まずは中立の立場でラストマンシップを持ちプロジェクトを進める要員を外部からアサインすることから始めてはいかがでしょうか。