PMIからGuide to Leading and Managing AI Projectsが発行されておりAIプロジェクトの実情について述べられていたためコラムとしてまとめます。
AIの技術が発達していますが、多くは失敗しています。結局、ビジネスに落とし込むには地道なコントロールの繰り返しが必要となるのが実情です。
1. AIプロジェクトマネジメントが必要な背景
AIは実験の域を超え、業務の中核へと拡大しました。従来のプロジェクト運営にデータ準備・モデル検証・倫理/ガバナンス・継続監視を組み込む実務枠組みが広がり、各社で測定可能な成果の可視化が求められています。
2. AIプロジェクトマネジメントという特別な考え方が必要な理由 失敗率の高さと従来手法の限界
多額の投資にもかかわらず目標未達に終わる案件が多いのが実情です。「80%超が目標未達」「2025年にS&P Globalは企業の42%が大半のAI案件を途中で破棄」「Gartnerは“本番到達は約半数”」などのデータがあり、成功率がいまだに低いのが実情です。
主因はビジネス整合の弱さ、データ未整備、検証不足、継続改善計画の欠如であり、単なる技術力の問題ではありません。またAIはデータ駆動かつ長期監視・ガバナンス必須という特性があり、要件固定を前提にしがちな枠組みだけではデータ/モデルの反復と継続監視までをカバーしきれません。
3. AIプロジェクトマネジメントの考え方
上記の背景と失敗要因を踏まえると、成功のカギは次の3点に集約されます。①クロスファンクショナル体制の明確化で“誰が何を担うか”を先に決め、意思決定と実装を直結させる。②Build/Buy/Integrateの経営判断を早期に行い、ROI・MVP・ガバナンス条件をレビューゲートで担保しつつ最適な実装経路を選ぶ。③プロジェクトを常に反復・学習・適応させる運営に切り替え、運用で得た知見を要件・データ・ガバナンスへ継続還流させて、単発の成功を組織能力に昇華する。
3-1. クロスファンクショナル体制を明確化
AIは技術(データ工学~モデル運用)×ビジネス(要件・価値検証)×組織(資源配分・ガバナンス)の交点で進むため、役割と責任(R&R)をドキュメントで先に固定します。
- プロジェクトリード(AI PM):全工程の進行・リスク・リソースを統括し、ビジネス整合と「信頼できるAI」基準を担保。技術と業務の橋渡し。
- データエンジニア:データ基盤/パイプライン、品質・系統管理(lineage)、ドリフト検知を含む運用要件を整備。
- BA/ドメイン有識者:解くべき業務課題の明確化、要件→技術仕様の翻訳、成果の妥当性確認、現場統合を推進。
- MLOps/DevOps:モデル/データのCI/CD、監視、自動テスト、バージョニング、再学習運用まで一貫管理。
この多能チームを共通の運営原則で整列させることが、複雑なAI実装を成果に変える前提です。
3-2. Build/Buy/Integrate の経営判断を早期に
開発に踏み込む前に、上流(企画・要件・データ準備)で適用パターンの当てはめ、データ品質/アクセス、準備完了条件を固め、自社開発(Build)/既製・事前学習モデル活用(Buy)/統合(Integrate)を経営判断として早期に決定することが重要です。
- Build:挙動・性能・IPを掌握でき、独自データや厳格な規制・差別化要件に強い。一方で専門人材・計算資源・期間が必要。人・金・時間の実行可能性を事前に確定する。
- Buy:スピードとコスト効率に優れ、確立されたAIパターンや内部専門性が限定的な場面に適合する。
- Integrate:外部モデル/APIを微調整(fine-tune)やプロンプト設計で組み込み、短期価値化と将来拡張性を両立する。
3-3. 反復・学習・適応で“能力化”する運営へ
AIは一度作って終わりでは機能不全に陥りがちです。運用を起点に反復・継続学習する前提へ切り替えます。
- 運用での観測→要件/データ/ガバナンスの更新:ユーザー行動、性能変動/データ・概念ドリフトなどの指標を定常監視し、上流工程へ還流して設計を更新する。
- “資産”整備:再現性あるデータ生成、品質ベースライン、完全なドキュメント、実験追跡、ベースライン比較を整え、最適化に時間を割ける状態で次のイテレーション(反復活動)へすすむ。
- 退却線も設計:改善が鈍化した場合の撤退・縮小・用途転換の条件を事前に定義し、投資の健全性を担保する。
この反復活動を定常化することで、組織は継続的な価値・イノベーション・業務変革を“再現可能”にし、単発案件→戦略的能力への移行を実現します。
参考
- Guide to Leading and Managing AI Projects